まるぶろぐ

備忘録として日々の出来事をこまごまと綴っております

2本立て

いつものとおり、まずはウィーン国立歌劇場の配信。今日はドニゼッティのオペラ「ドン・パスクワーレ」。METのライブビューイングでは2010-11シーズンに一度上映されただけの比較的レアな作品。

原作のテキストに時代背景等の指定は特にないようで、グーグルの画像検索で過去の公演を見ると、舞台装置も衣装もいかにも昔の貴族階級といった雰囲気のものが多い。MET版は若干カジュアルだったような気がするけど、それでも「セビリアの理髪師」や「フィガロの結婚」などと同じような時代を思わせるものだった。ところが、今回のウィーン版は現代に置き換えていて、主人公のドン・パスクワーレはド派手なインテリアのレストランを経営していて、甥のエルネストを演じるファン・ディエゴ・フローレスはTシャツの上にダンガリーのシャツを羽織っている。それが後半、真っ白なスーツに帽子で胸ポケットにピンクのバラを差して登場するのがなんとも素敵。設定の置き換えに無理があった「魔弾の射手」とは違い、この作品は現代に舞台を移しても歌詞に矛盾が生じる箇所もなく、文句なしに楽しかった。タイトルロールを演じるミケーレ・ペルトゥージは、「ラ・チェネレントラ」の賢者アリドーロが記憶に新しい。ノリーナのヴァレンティナ・ナフォルニツァもマラテスタのアダム・プラチェッカももうすっかりおなじみ。

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観ながら手織の整経をするつもりで糸を準備していたのだけれど、網代織りバリエーションを予定していて、ちょっと複雑になるので観ながらだと間違えそうだから、思った以上にあちこち目が飛んでいた網代織りのスカーフの補修をした。

ウィーン国立歌劇場の配信をずっと観続けてきて、同じ作品が配信される都度、前回のはいつの公演だっけ? とか、去年観たんだっけ? とか、去年の手帳まで遡ったりしながらチェックするのが面倒で、どうせ時間があるんだし、と OTTAVA.TV での配信がスタートした2019年5月以降に観たオペラの作品を通し番号付きのリストにしてみた。そうしたら、今日の「ドン・パスクワーレ」が84番め。そのうちまったく同じ公演を再視聴したのが4本。思ったより多かったなぁ。ちなみに、コロナウイルスの影響による公演中止に伴い無料配信がスタートした最初の「ラインの黄金」は35番めだから、その後約50本も配信されるほど公演中止が続いているのよねぇ。そしてまだ終わりは見えない。

… と感慨に耽りつつ Twitter をのぞいたら、昨日ウィーン国立歌劇場の配信で観たばかりの「ナクソス島のアリアドネ」がMETでも配信されている。ライブビューイングでは上映されていないはずだけど、と調べてみたら、それもそのはず1988年3月の公演で、DVDとして発売されているものだった。素晴らしかった「アイーダ」の3年後。これは観なくちゃ。

オットー・シェンク演出の舞台はウィーン版と設定がまったく異なり、時代設定がかなり古く、バッハやモーツァルトがかぶっているようなかつらに豪華な衣装。ツェルビネッタもそのままムゼッタとして「ラ・ボエーム」に出られそうだし、彼女の一座の面々も宮廷楽士のような出で立ち。ウィーン版では、自分が書き上げた悲劇のオペラを屋敷の主人の命令で喜劇とごちゃまぜにされて憤慨するも、コメディエンヌのツェルビネッタに惹かれ、しまいには彼女の歌をその場で書いて彼女が劇中劇のトリを飾り、二人のキスシーンで幕が降りる。この演出しか観たことがなかったんだけど、今回のMET版はまったく違った。上演にこぎつけるまでのドタバタで第1幕が終わると、第2幕は劇中劇で、作曲家はもう登場しない。アリアドネとツェルビネッタのそれぞれの見せ場に続き、アリアドネバッカスに出会ってからはソプラノ歌手とテノール歌手の独壇場。ツェルビネッタは幕切れ近くに再び登場し、二人を祝福するごく短い一節を歌うのみ。アリアドネを演じるジェシー・ノーマンが素晴らしく、ここまで熱唱してくれたら作曲家冥利に尽きると言うほかはなく、もうツェルビネッタのことなんか忘れて感激のあまりソプラノ歌手の前にひれ伏すんじゃないかと思ったぐらい(最後まで作曲家が登場しないとは思わずに観ていたので)。ここまで変わるともうほとんど別の作品だよね。それぞれに魅力的ではあるけれど、MET版のほうがいいと思うなぁ。ちなみに、指揮はやっぱりジェイムズ・レヴァインで、3年の間にかなりふくよかになっていたような。作曲家はタティアナ・トロヤノス、音楽教師はフェルヂナント・ネントヴィヒ、執事長はニコ・カステル、舞踊教師はジョゼフ・フランク、テノール歌手はジェームズ・キング、ツェルビネッタはキャスリーン・バトル、3人の精霊(といっても舞踏会に行くような衣装だった)のうち水の精は、フェリシティ・ロッテの元帥夫人が素晴らしかった「ばらの騎士」でゾフィーを演じていたバーバラ・ボニー

間に斎藤さんの OTTAVA Andante も聴いてはいたのだけれど、途中で居眠りしちゃったのねん。