まるぶろぐ

備忘録として日々の出来事をこまごまと綴っております

四月大歌舞伎

朝から歌舞伎座へ。電車の中では、図書館で借りた2冊目、杉井光さんの「世界でいちばん透きとおった物語」を読む。いつもなら幕間にも読むのだけれど、ニャンドゥティの次のドイリーに使う糸の配色がなかなか決まらないものだから、候補の2色で試作してみたくて、小さな丸い枠に円の土台を張ったものを持参し、チクチク。

昼の部の最初は「引窓」。梅玉の南与兵衛、扇雀のお早、東蔵の母お幸とベテラン揃いのところへ松緑の濡髪長五郎。関取の役が自然になじみ、4人のバランスがとても良かった。主筋のために人を殺めてしまった長五郎を助けたい母と、十手持ちの役目柄、長五郎を捕らえなければならない与兵衛。実の親子となさぬ仲の親子。時を告げる鐘の音に続く「ありゃもう九つ」「いやまだ明け六つ」「残る三つは」「母への進上」という異父兄弟のやり取りが緊迫しつつ情愛があふれ、つくづくよくできた芝居だなぁ、とあらためて感じ入る。引窓の縄を引いて窓を開けると月明かりが入り、閉めると暗くなる。その操作で時間を偽る様子を表す工夫が今の劇場は明るすぎて活きないことをいつも残念に思う。

続く「七福神」は、隼人、新吾、鷹之資、萬太郎、虎之介、右近、歌昇の若手7人の舞踊で、豪華な宝船も登場。奥から舞台端までその船が移動する場面では、ワンピースで麦わらの一味が勢揃いする帆船の場面を思い出した。そうした見かけが先行し、踊りとしての面白さを堪能するところまではいかなかったなぁ。

「夏祭浪花鑑」の段七を愛之助、黒兵衛を菊之助。花道から歌六の三婦と米吉のお梶が登場。実の父子がこうして並んでいるのはわりとレアな気がする。莟玉の琴浦に種之助の磯之丞。菊之助はむしろ磯之丞のほうがニンなのだけれど、この座組だと仕方ないか。橘三郎の義平次との殺し場が意外と盛り上がらなかったなぁ。

昼の部の終演後、急いで地下の木挽町広場に降りたのだけれど、タリーズが満席で、他に時間をつぶす場所もなく、五月人形の代わりなのか勇壮な甲冑が飾られている広場をうろうろ。舞台写真は夜の部の仁・玉コンビの素敵な写真があればぜひほしいと思っていたのだけれど、二人が並んでいる写真もアングルがイマイチで、眞秀くんの可愛らしい写真に少なからず惹かれたものの、今月はパス。

夜の部では、「於染久松色読販」のお六・喜兵衛と続く「神田祭」で仁・玉コンビを満喫。夫婦でゆすりに来る場面での台詞や仕草はもちろん目線のちょっとした動きさえ二人それぞれに魅力的でたまらないのに、踊りのほうでは恋人同士で頬を寄せ合ったりするんだもの。客席からなんどもため息がもれていた。さもあらん。仁左衛門80歳、玉三郎73歳。でも二人とも、最前列で見ていても実年齢の半分未満にしか見えない。もうね、ただ素敵とか美しいとかのレベルじゃなく、尊いと思ってしまうのよ。ずっとずっと観ていたい。

最後は「四季」と題する舞踊で、春の「紙雛」ではお内裏様と五人囃子、夏の「魂まつり」では大文字の送り火、秋の「砧」では李白漢詩をもとに夫を想う若妻、冬の「木枯らし」では木の葉が舞うような群舞。冬の場面に松緑坂東亀蔵の二人だけは茶色い衣装で、丸い黒めがねをかけた松緑の風貌からてっきりたぬきだとばかり思っていたのだけれど、実はみみずくだったらしい。木の葉の面々は様々な立廻りを披露。

終演は19時半と早目。先月は20時45分で終バスにギリギリだったのに。おそらく20時頃が目安だとは思うんだけど、ちょっと差がありすぎかな。

21時前に帰宅。「世界でいちばん透きとおった物語」が面白くなってきた。