朝からシンシンと冷たい雨の中、浅草に向かう。すっかり毎年恒例になった新春浅草歌舞伎。いつもは仲見世のあちこちにこの公演のポスターやのぼりなどがあって、街全体で盛り上げていこうという空気が感じられるのに、今回それがほとんどなかったのは、すでに松の内がすぎているからかしらん。ちょっと寂しい。
勘太郎はおそらく勘九郎襲名の準備で忙しく、七之助は平成中村座に出演中なので、今年の浅草は亀治郎がメインで、さらに一世代若くなった印象がある。日替わりの年始ご挨拶が今日は第一部が現役高校生の隼人クン、第二部は壱太郎クンで、どちらも元気いっぱいでのびのび。壱太郎に至っては、夕べ観ていたく興奮したという木馬座の大衆演劇にならって、坂本冬美の「まだ君に恋してる」を歌いながら即興の踊りを披露。幹部がズラリと並ぶ本興行ではこうはいかないだろうけれど、そこは浅草。こんな一面もあったのか、と見直してしまった。
「南総里見八犬伝」は長い長い物語だからごく一部のみ。伏姫は春猿で、本興行では若手のこの人も若手がメインの浅草では中堅のひとり。亀治郎は庄屋と犬山道節の二役で、庄屋では竹三郎の女房との実年齢差を感じさせないほどに老けの拵えがはまっているものの、ちょっとウケを狙いすぎ。娘役の壱太郎にものすごい顔で至近距離に迫るものだから、壱太郎、必死で笑いをこらえていた。竹三郎とともに薪車もいい役で出ていて、浅草に関西勢とは新鮮。
壱太郎は次の「廓文章」で夕霧となり、伊左衛門は愛之助。この芝居、二人がじゃらじゃらする場面が長くて、藤十郎だと大丈夫なんだけど、仁左衛門でも集中力がとぎれがち。だもんだから、今回も途中でちょっと意識が飛んでしまった。4列目でよかった (^_^;)
第2部は挨拶のあと「敵討天下茶屋聚」のみで、これまた亀治郎ワールド。敵の東間は愛之助で、この人、悪役だとすっごく冷酷そうな表情になって、本当に悪い奴に見える。亀治郎の元右衛門の兄弥助に男女蔵さん。愛之助と対象的に、根っから人のいい役がピッタリ。元右衛門が逃げ回って客席におりる場面で、客の傘を奪って差して顔を隠しながら座り込んだ空席が私の席の真後ろ! 舞台に戻り、いよいよ追い詰められると開き直って、「み〜っくん」と巳之助にニックネームで呼びかけ、アドリブで笑わせようとする。さらに春猿に対しても、客席に背を向けている春猿を無理やり客席に向かせると、春猿たまらず吹き出してしまう。それでも地の芝居がしっかりしているから、まぁご愛嬌でいいかと。
私が歌舞伎を観始めた頃、猿之助はすでにアラフィフだった。今の亀治郎はそれよりほぼひと回り若い。きっと当時の猿之助も今の亀治郎のように大奮闘していたのだろうなぁ。
浅草の終演は6時半すぎと早いので、そのあと浅草寺にお参りをして、夕食は木楽のカレー南蛮。美味しかったぁ♪