まるぶろぐ

備忘録として日々の出来事をこまごまと綴っております

福岡空港

maru992007-10-03

6時にセットしたアラームが鳴る前に目が覚めた。パン教室で焼いたハニーブレッドを少しお腹に入れ、なんとなく落ち着かなくて予定より早く家を出る。羽田空港までは自宅の最寄り駅からリムジンバスがあるのだけれど、9時集合のところ到着予定は8時50分。道路事情で遅れる可能性もあるし、大きな荷物もないので時間重視で浜松町経由。8時40分ちょっとに羽田空港第二ビルに到着。集合場所は第2ターミナルのANAチェックインカウンターの前。でもカウンターがズラリと並んでいて、どこで待てばいいのやら。念のためANAのスタッフにきいてみると、当惑気味に、「すべてANAのカウンターでございますので … こちらでは分かりかねます」 と言われてしまった。はて、と見回すうち、同行する元同僚のひとりを発見。よかったぁ。


博多で亡くなった元同僚はかつて弁護士の秘書だったので、親しい同僚もほとんどが秘書だから、平日に急に休みをとるのは難しいだろうと思っていたのに、ことがことだけにそれぞれのボスが快く送り出してくれたようで、私を含めて総勢8人。9時45分発の飛行機で福岡空港へ向かう。11時半近くに着いて飛行機の外へ出るなり、まず暑さにビックリ。コスモスが咲きススキも揺れているのに、気温は27度を超えていた。空港から2台のタクシーに分譲して斎場へ。高速経由なら20分程度で行くはずだったのが若干時間がかかってしまい、正午からの葬儀の開始に間に合わず、斎場のロビーに到着した時点ですでに読経が聞こえていた。この日その斎場で行なわれるのは彼女の葬儀だけ。正面玄関に張り出された「○○○○儀告別式」 という看板に大書された彼女の名前に、あらためて現実なんだと思い知らされる。


各自記名を済ませて式場に入ると、別便で来たもうひとりの元同僚がすでに席についていた。私たち事務所関係のグループを除くと、あとは10人足らずの親族のみ。遺影の穏やかな笑顔に哀しみが募る。焼香の際、その遺影と間近で向き合った途端、こみ上げてくる涙をこらえることができなかった。全員の焼香が終わり導師が退場した後、棺を開け、最後のお別れ。言葉では表現しようのない美しさをたたえた彼女はどことなくホッとしたような表情をしていて、心の中で話しかけながら、どのくらい見つめていただろうか。涙が止まらず、今にも泣き崩れそうになるのを必死でこらえる。彼女がとても可愛がっていた2人の甥っ子がしゃくりあげる声がいつまでも続いて、さらに涙を誘った。


ロビーで出棺を見送り、合掌…。親族からあらためてお礼の言葉があり、おひらきとなった。焼き場まで行くつもりで4時半頃の飛行機を予約していた私たちは、当惑したもののどうしようもなく、そのまま空港へ戻ることにした。でもまぁ、私としては骨になった彼女との対面なんてしたくなかったから、結果的には良かったかな。


別便で来た元同僚とは斎場で別れ、5時までに事務所に戻らなければならない別の元同僚を空港で見送り、あとは自分たちの飛行機の時間まで3時間余り。みんながお土産を物色している間、私は近くのベンチに座り込んでいた。というのも、なんたって普段は下駄ばかりで革靴なんて喪服の時しか履かないものだから、足が痛くて仕方がなかった。これまでにも何度も履いている靴だから靴ずれしたわけではなく、それほど先の細いタイプではないのに、指先がしめつけられるような痛みでどうにもならない。中国の纏足って、毎日こんな痛みに耐えていたのかなぁ、なんて考えてしまうぐらいで、この時点ではもう歩くのが苦痛でならなかった。失敗したなぁ。情けない〜。


空港内のレストランでゆっくり食事をとりながら、精進落としと称して昼間から焼酎をば。彼女にもっとしてあげられることがあったのではないかという後悔と、常に自分のことは後回しで人のことばかり考えていた彼女に、病気の時ぐらいもう少し頼りにしてほしかったという思いはみんな同じ。博多までの距離と、友人でしかない私たちが家族の問題に立ち入るわけにいかなかったという事情が今さらながらに恨めしく、彼女の思い出もまじえながら話はつきない。


食事が終わってもまだ時間が余っているので喫茶店に場所を移し、さらに話は続く。みんなと一緒で本当に良かった、とあらためて思った。もしひとりでここまで来ていたら、こうしてみんなと思いを共有することもなく、発散できないまま、哀しみに深くとらわれて鬱々としてしまっていたと思う。


行きも帰りもフライトは順調で、6時すぎに羽田着。足がほとんど限界なので、少しでも歩かずに済むようにリムジンバスで帰ることにして、こんなに痛い靴をもう二度と履くことはないだろうから、とカカトをつぶしてスリッパ状にしてしまった。歩きにくいけど痛いよりはずっといい。リムジンバスの中では爆睡してしまった。8時ちょっと前に最寄り駅に到着。もう夜だから、誰も人の足元なんて見てない見てない。家に着いて、靴を脱いだ時の解放感! 両足ともに小指がジンジン痛かった。


はぁぁぁぁぁ〜っ。喪服を着替え、ひとまず珈琲を入れて、ソファーにへたりこむ。しばし放心状態。美しかった彼女のあの肉体がもうこの世に存在しないのだと思うと切なくて、また少し泣いた。


どうぞ、どうぞ安らかに。合掌…。