まるぶろぐ

備忘録として日々の出来事をこまごまと綴っております

maru992004-09-19


伯母のせわしない呼吸を常に耳にしながら、空きベッドでうつらうつら。看護婦さんが時折り訪れては血圧を測ったり検温したりしていく。そのつど私も目を覚まして見守っていたのだが、レンズをはずしているのでぼやけた世界。
午前3時のそれはいつもと違っていた。緊張が走り、身構える。心電図に変化があって、血中の酸素濃度が低下したので、鼻から吸入している酸素の量を倍に増やすと説明を受けた。顔なじみの看護婦さんだったので「自分の着替えを取りに帰るつもりだったんだけど」というと、「ちょっと厳しいかも」という答えだった。「ナースステーションでモニターしてるから寝てていいよ」と言ってくれたけどすっかり目がさえてしまい、レンズを入れ、伯母の枕元に座る。さすがに死体を切り刻む物語の続きを読む気はせず、伯母の顔を見ていた。
20年前に逝った母の顔がダブる。母の最期は急すぎて、こんな時間をもつことはできなかった。
4時半、5時半、6時半、伯母のせわしない呼吸は続く。隣りの病室からのイビキ。トイレへ向かう患者の足音。静かな時間が流れていく。
7時半、8時半、9時半、伯母の状態にめだった変化はない。家に帰るのはあきらめ、駅前の東武ストアに向かう。まずドコモショップでケータイを充電してもらい、急場をしのぐための安物のストレッチジーンズと、もう1泊しても大丈夫なようにTシャツを2枚と、遅い朝食と夕食を買い込む。病院に戻ってシャワーを使わせてもらい、ようやくスッキリ。さあ、長期戦の準備は整った。そう思った。これがちょうど正午を過ぎた頃。
1時過ぎに心拍が弱まった。それからが早かった。1時半には呼吸の回数が減り始め、すぐに民生委員さんに連絡したけど間に合わず、午後2時5分に永眠。伯母の長い長い闘いは終わった。本当に、本当によく頑張ったね、伯母ちゃん。何度も何度もシミュレーションしてすっかり心の準備はできているつもりだったけど、いざ力つきた伯母を前にすると涙を抑え切れない。「あなたもよく頑張ったね。おつかれさま」と看護婦さんに肩を抱かれていっそう泣けた。
看護婦さんたちが伯母をきれいにしてくれている間に葬儀社と連絡を取り、私は伯母の荷物を整理(といってもほとんどは処分)した後、伯母の自宅で遺体を迎えるための準備。葬儀社が病院から伯母を搬送してくる予定の5時まで30分しかない。出しっぱなしのストーブやコタツ布団を隣りの部屋へ押し込み、2階から敷布団を降ろしてくる。とりあえず邪魔なモノは全部隣りの部屋へ。滝のような汗。ぜいぜい。
そこへ民生委員さんが伯母のためにと花束や果物を買ってきて下さった。そんなことまで気が回らなかったから、ありがたいと思った。
伯母の遺体が到着し、スケジュールを決める段階で大問題が…。運悪く20日と23日はお寺で彼岸供養だし、伯母以外にもう一人亡くなった方がいて、ご住職は枕経をあげに出掛けてしまい連絡が取れず、そちらのお宅で21日通夜23日告別式の予定は決まっていて、無関係のお寺の方にお経をお願いした場合は菩提寺では埋葬できない決まりがあるというのだ。しかも斎場の予約も取れず、ご住職と斎場のスケジュール上は24日以降が望ましいが、それまで遺体を安置しておく場所がない。斎場でも葬儀社でも式場専用の安置所敷かないため、数日間も預かってもらうことはできない。それまで私がずっとここにいるわけには行かないし。
難航したスケジュール調整の末、通夜と告別式を分けて行うことはせず、明日の午前中に納棺の儀を済ませ、自宅でシンプルな支度を整え、21日にご住職に掛け持ちしてもらって、朝9時半という早い時間から送る式をして10時半には出棺。ご近所の方々と一緒にマイクロバスで火葬場に向かい、火葬の間にささやかな食事を用意し、ご住職が次の仕事に向かった後、私もマイクロバスで伯母の自宅に戻り、再びシンプルな焼香の場を設け、その後に私の自宅に連れ帰るという強行軍。
喪服を取りに行くこともあきらめレンタルすることにしたのだが、新たな問題が。私ってば黒は黒だけど裸足で履けるスニーカーなんである。仕方ないから明日葬儀社の人が来て納棺の儀の後21日の準備をしている間に黒い靴とストッキングを買いに行こう。
焼香に来て下さるご近所の方々に応対しながら葬儀社と事細かな打ち合わせをし、葬儀社の人が帰ったのが9時過ぎ。伯母の自宅までの地図を描いて、葬儀社の人が車でコンビニまで行って取って来てくれた死亡診断書のコピーと一緒に、民生委員さんのお宅のFAXをお借りしてお寺に送り終えた時には10時を過ぎていた。伯母の50年来の友人と伯父に連絡をする。すったもんだの末に伯父は21日の朝こちらへ来ることになった。
ご近所の方々を送り出し、1人に、いや伯母と2人になったのが11時過ぎ。朝サンドイッチを食べたきりだったから葬儀社との打ち合わせの最中に恥ずかしいほど鳴っていたおなかも、時間が経ち過ぎて静かになってしまった。昨夜は2時間しか寝てないし、午前3時から起きているからコンタクトレンズが違和感を主張し始めている。果たして今日これから眠れるのか。布団もなく座布団を並べて寝るしかないこの部屋で…。