まるぶろぐ

備忘録として日々の出来事をこまごまと綴っております

ニコラスに捧ぐ

maru992007-06-20

たっぷり寝てすっきり目覚めたのが10時すぎ。いつものことながらバタバタと慌しく身支度を済ませ、11時半すぎに家を出る。向かうのは下北沢。久々の本多劇場で、加藤健一事務所 「モスクワからの退却」 の千秋楽。


かろうじて近くのファーストキッチンサルサドッグをお腹に入れ、開演10分前に到着。今回はうっかりチケット発売に出遅れてしまったので10列目。それでも十分に見やすいのがこの劇場のいいところ。加藤さんの他には久野綾希子さんとスタジオライフの山本芳樹さんの2人だけ。タイトルから、モスクワでの戦争体験を持つ男とその家族の話だと想像していたのだけれど、まったく違った。五十代後半の夫婦とそのひとり息子。33年に及ぶ結婚生活は破綻をきたし、夫は家を出ようとしている。愛が深いがゆえに夫はこうあるべきと要求の多い妻に辟易しながら、内に秘める性格の夫は何も言えない。それが妻を余計に苛立たせ、両親のそれぞれの気持ちが分かりすぎるぐらいに分かる息子は苦悩する。まぁ、よくある話と言えなくもないわけで、加藤さん、また難しい本を選んだなぁ、と思いながら観終わった後、パンフを見ると、やはり観客に受け入れられるかどうか悩んだ末の 「身勝手な冒険」 だったと書かれていた。長年ずっと加藤さんの芝居を観てきたから、そのたびにまったく違う加藤さんの振り幅の広さが楽しみのひとつでもあり、そういう視点で見るととても興味深い舞台だったのだけれど、後ろの席のオバサンたちには 「よくある話よねぇ」 「ただの夫婦のもめごとじゃない」 と不評だったみたい。エキセントリックな妻の役に久野綾希子さんを選んだのは 「目もくらむように美しい女性」 という台詞があったからで、明るくて華がある人じゃないと辛い役だし、というのにとても納得。明るさと華だけじゃなく、声もきれいなんだよねぇ。山本芳樹さんの舞台は観たことがなかったけれど、この夫婦の息子としてなんの違和感もなく、ナイーブで優しい青年を好演していた。前回はところせましと走り回っての熱演だった加藤さんが抑えに抑えた演技で、う〜ん、こんな加藤さんもステキだぁ。


15分の休憩をはさんで2時間半近くに及んだ芝居の後、喫茶店で時間をつぶす。5時半近くまで2時間はつぶさないといけなかったんだけど、下北沢って駅と本多劇場のごく周辺しか知らないせいか、イマイチ落ち着けないのよねぇ。結局時間をつぶしきれなくて、予定より1時間早く、渋谷から東横線で横浜に出て東神奈川へ。初めて降りる駅で、めざすホールは駅のすぐ隣りなので、その1階にあるドトールに入ると、そこにはアルパのお仲間が。そう、今日はこれからアルパのコンサート。魔法の手を持つアルパ奏者ニコラス・カバジェーロの来日コンサート♪


ワクワクしているところへ携帯にメール。あうう。仕事が入ってしまった〜。添付書類が削除されていて確認できないので、返事はとりあえず保留させてもらう。


アルパの先生にお願いしたチケットは受付預かりのはずだったのだけれど、なぜか私の名前がなく、予備の席をもらった。それが前から3列目の左から2つめ。わずか300席の小さいホールなので、ステージのすぐ近く。開演までの間、レース編みにいそしんでいると、スタッフの方がいらして、確認し直したら私のチケットが取り置きしてあったというのだけれど、その席は前から5列目の左端。「今の席の方がいいですね。こちらの不手際ですから、そのままどうぞ」 と、すぐにチケットが見つからなかったおかげで得しちゃった。


7時開演。蒸気機関車が走る様子をアルパで表す 「牛乳列車」 というおなじみの曲でスタート。まだ曲が始まっていくらもたたないうちに、すっかり圧倒されてほとんど放心状態。まさに超絶技巧! すごすぎ! アルパって普通、右手も左手も親指から薬指までの4本ずつで弾くのだけれど、彼は10本の指をすべて駆使して、指の1本1本が見えるはずの距離なのに、その動きが速すぎてほとんど見えない! 人間の指ってこんなに細かく速く動けるものなの?! とても楽譜にできるような演奏ではない。もう目がくらむような美しい音の洪水にただただ翻弄されるばかり。しかも高音から低音に至るまですべての音のひとつひとつがキラキラと澄みわたって美しいこと! いやぁ、参った。一部はアルパの名曲ばかりを集め、二部では映画のテーマソングにプレスリーサイモン&ガーファンクルとバリエーション豊かで、「川の流れのように」 から 「地上の星」 へのメロディーもあった。素晴らしいのは、単にアルパにアレンジし直しているだけでなく、それぞれの曲の世界を見事に表現し尽くしていることで、「地上の星」 なんて中島みゆきが聴いたら涙を流して喜ぶんじゃないかと思うぐらいに素晴らしかった。アルパって弾く人によって音がまったく違うのだけれど、こんな演奏ができてしまう楽器だったのねぇ。圧巻。なんかもう彼のアルパに酔って熱が出ちゃいそう。


ホールを出た後も余韻でなんだかヘロヘロのまま、京浜東北線で延々と西日暮里をめざす。あとはいつもどおりのルートで、11時すぎに帰宅。芝居とアルパでなんとも贅沢なアートな1日。でもまだ終わりではない。まずは仕事のメールを確認し、幸い短い書類だったのでOKの返信をしてから、飽和状態の頭をお風呂でクールダウンした後、夕べパスしてしまった手織りの続き。一応これもアートかなぁ? このみさんの Day Break を聴きながら5時まで織り続ける。そろそろ半分ぐらいまで織れたかなぁ。まだまだだ〜!