まるぶろぐ

備忘録として日々の出来事をこまごまと綴っております

納涼歌舞伎

第一部はじめの 『天保遊侠録』 は、勝海舟の父親の若き日を描いた真山青果の作品。『元禄忠臣蔵』 の連作中に手がけたものだそうで、青果らしい爽やかさにあふれ、青果劇の特徴とも言うべき緻密な台詞劇とは趣の異なる楽しい作品。配役もそれぞれに適任で面白かった。

続く 『六歌仙容彩』 では、六歌仙のうち小野小町福助、その他の5人すべてを三津五郎。普段、6つのうち1〜2つだけを上演することが多いけれど、今回のようにすべてを連作としてやってくれると変化舞踊の特色が浮き彫りになって面白みが増す。ましてや踊りの名手の三津五郎勘三郎のお梶との息もピッタリ。

第二部は、まず問題の 「豊志賀の死」。すでに見た人から聞いて大方想像はついていたものの、福助の豊志賀はそれをはるかに超えていた。意図的に笑わせようとしているとしか思えない。そういう芝居じゃないはずなのになぁ。女の妄執のすごさに背筋が寒くなる、というのが本来だと思うのに。菊之助が新吉を演じた映画 「怪談」 の黒木瞳の方がむしろ本筋の怖さだった。勘太郎の新吉はじめ周りがよかっただけに残念。

勘三郎の 『船弁慶』。このあとの第三部で汗だく出ずっぱりの奮闘が待っているのに、二部でこれを出す勘三郎。体力がなくちゃできないよねぇ。

そして第三部。谷崎潤一郎原作の 『お国と五平』 は、おそらく好き嫌いがハッキリ分かれる作品だと思うのだけれど、今回は配役がピタリとはまり、私はとっても面白かった。こういう陰のある複雑な性格の男性をやらせたら三津五郎の右に出る者はいない。

7年ぶりの 『怪談乳房榎』。勘三郎の4役早替りが見所で、引っ込んだあと別の場所から登場するために走り抜ける足音がハッキリ聞こえ、思わず舞台裏をのぞきたくなる。ただ衣裳や鬘が変わるだけでなく、表情も動きもまったく別人になって演じ分けるところが中村屋。この役はもう彼でしか見たことないし、別の役者で観る日が来るとすれば、勘九郎を継ぐことが決まった勘太郎だろうな。