納涼歌舞伎 - まるぶろぐ

先月は感染のせいで後半の公演が中止になってしまい、観劇できずに終わってしまった。今月も同じように後半のチケットを取っていたところ、まず15日に第１部の中止が決まり、18日から代役で再開されることになったと思ったら第３部が中止、19日には第2部も中止となり、20日には第２部・第３部とも代役での公演再開が発表されるというカオスな状況で、また中止になりはしないかと直前まで安心できずにいたのだけれど、無事に第１部から第３部まで通しで見ることができた。上演回数の多い古典の作品であれば、ある程度経験のある世代なら急な代役でも対応できて当たり前と言われる（それでも十分、大変なことだと思うけど）。ところが今月の演目は、第１部の「新選組」は手塚治虫さんの漫画をもとにした新作だし、第２部の「安政奇聞佃夜嵐」は過去３回しか上演されたことがなく、その３回目も33年前という珍しい作品。それだけに、ごく短期間で代役できてしまうのが不思議なぐらいで、特に８月恒例の納涼歌舞伎は若手が中心なこともあり、逆境に負けてたまるか！という熱い思いが伝わってきた。

「新選組」はもともと勘九郎が着想したもので、主役は自分より若い世代のほうが、と従弟の中村福之助・歌之助兄弟に譲り、自分と七之助は年嵩の近藤勇と土方歳三に回っていたところ、若い２人が感染したため勘九郎・七之助が代役し、近藤勇は片岡亀蔵が演じ、土方歳三は台詞を沖田総司に回す演出の変更で対応。中村屋も兄弟で息がピッタリなのは言うまでもなく、手塚治虫さんの漫画を背景や屏風絵に使い、ブラックジャックやピノコもちょこっとずつ登場するオマージュが楽しく、イキイキとした作品になっていた。火の鳥の屏風絵がしっかり写っている舞台写真、買っちゃった ♪

第１部はこのあと様々な妖怪が登場する舞踊「闇梅百物語」が続き、休む間もなく勘九郎は骸骨に、七之助は雪女郎に変身。お疲れ様！

「安政奇聞佃夜嵐」は青木と神谷という二人が脱獄をする話で、青木を演じる幸四郎が染五郎の感染で濃厚接触者となり休演せざるを得ず、猿之助が代役。観たこともない作品をたった１日で代役するってどれだけ大変か。歌舞伎の世界では「３日ご定法」と言われる不文律があり、代役が決まると最低３日間はその代役のままで演じることになっている。幸四郎は幸いその３日間があけた22日から復帰できたので、私が観た今日は幸四郎の青木と勘九郎の神谷という本来の配役。どうしてこれまであまり上演されてこなかったのか不思議なくらい面白かった。これから再演されていくといいな。

続く舞踊は猿之助の「浮世風呂」。てことは、代役していた３日間は猿之助が第２部出ずっぱりだったのね。お風呂の三助になめくじがからむユニークな舞踊で、なめくじを演じていた團子くんも感染してしまい、代役がもともと女型の笑野さんなので、色っぽいなめくじだった。最後は塩を振られてしまう可哀想ななめくじさん。猿之助の踊りは見ていてとても気持ちがいい。

第３部は、猿之助・幸四郎コンビによる弥次喜多シリーズで、今回が４作目になるのかな？　「弥次喜多流離譚」と書いて「弥次喜多リターンズ」と読ませる。猿之助・幸四郎の２人を「おじさん」と呼ぶ團子・染五郎コンビも初回から登場していて、今回はその若い２人がとびきり美形に成長し、という展開のはずがそろって感染してしまったため、團子の代役を隼人、これはいいとして、染五郎の代役を年代も体型もまったく違う猿弥がやるというので話題になっていた。もともと全体がコミカルな作品とはいえ、猿弥はあえて三枚目にすることなく、あくまで美少年として大真面目に演じているのがもうおかしくておかしくて。踊りはもともと得意な人とはいえ、他の人とまったく同じ動きをしているのに、どうしても猿弥さんに目が行き、そして思わず笑ってしまう。なんだろうなぁ。とにかく人を笑顔にしちゃう魔法がかかっているみたい。同じく感染して休演していた男寅くんが元気に復帰していたのも嬉しい。また、御年92歳になる澤瀉屋の長老、寿猿さんがゴンドラで宙乗りをする場面があり、ゴンドラが上がっていくと、その底に最高齢の宙乗りとして「ギネス申請中」の文字。認定されるといいなぁ。