正午から国立劇場の小劇場で、稚魚の会・歌舞伎会の合同公演。今月4日に稚魚の会「友の会」のパーティーで、合同公演に出演する皆さんからそれぞれの意気込みやお稽古の様子を伺ったので、今日の千穐楽の舞台をとても楽しみにしていた。
歌舞伎俳優養成研修の修了生たちの「稚魚の会」と、幹部俳優に直接入門した俳優たちの「歌舞伎会」との合同公演が初めて開催されたのは昭和63年で、その後は2つの会がそれぞれに公演を開催したり、数年おきに合同公演を開催したり。合同公演が毎年開催されるようになったのは平成11年の第5回以降だそうで、私はその回以降、多分すべて観ている。それがもう今年で25回。早いなぁ。出版元が代わる前の「演劇界」に、合同公演の劇評を書かせてもらったこともあったのよねぇ。もう遠い昔。
以前はA班B班の2つに分かれ、昼夜で同じ演目を競演していたので、通しで両方を見比べる楽しみがあった。ところが、合同公演が行われる8月も歌舞伎座その他で通常公演が行われていることもあり、参加できる人数が限られることから、現在の公演形態になって久しい。もっとも2班だった当時は自由席だったから、暑い夏に早くから並んで待つのは本当に大変だったから、指定席で並ぶ必要のない今はらくちん。
また、以前は若手の勉強会といえばこの合同公演ぐらいだったのに、今は松也がメインの「挑む!」、右近の「研の会」、蔦之助の「蔦の会」などがすでに回数を重ね、他にも様々な自主公演や勉強会が行われるようになってきた。みんな頑張っているのよねぇ。
… とあれこれ想いにふけっているうちに開演。最初の演目は「一條大蔵譚」より奥殿の場。パーティーの間中ずっと隣の席でいろんな話をしてくれた吉兵衛さんの大蔵卿。作り阿呆のおかしみよりも、そうせざるを得なかった長成の悲哀が伝わってくる師匠のやり方をお手本に、と語っていらした、そのとおりの長成。春希さんの常磐御前は凛とした美声がよく通り、「自分は線が細いから」と心配そうに話していた又紫朗さんの勘解由は、どうしてどうして、野太い声でちゃんと手強い敵役になっていた。松三さんの鬼次郎に緑さんのお京、春之助さんの鳴瀬とそれぞれに熱演で、真摯な舞台。
「棒しばり」は、桂太郎さんの大名に松悟さんの太郎冠者、橋吾さんの太郎冠者。3人とも明朗快活で、その明るさがこの楽しい踊りにピッタリ。
やゑ亮・音蔵コンビの「三社祭」も音幸・貴緑コンビの「関三奴」も、どちらも息がよく合い、見ていて気持ちがよかった。
そして最後は「与話情浮名横櫛」の源氏店の場。これがもう驚きだった。レベルが高い! 好蝶さんのお富は、師匠の時蔵さんの教えを受け、そのよく通る声と美しい風貌は若い頃の福助や今の児太郎を彷彿とさせる。対して橋三郎さんの与三郎は、特に誰にも似ていないのだけれど、風姿がいいだけでなく、名台詞はたっぷりきかせ、安に対してすねて見せるところや、ふてくされたような表情も絶妙。その蝙蝠安は彌風さんで、軽妙で、下卑になりすぎず、凄みもきいていて、滑稽さもほどよい。メガネ曲げの剽軽な番頭は若手には難しいだろうと思うのに、桂太郎さんが好演。橋吾さんの多左衛門も貫禄たっぷり。緑さんのおよしも、武家の女だったお吉とはまったく違う市井の女をちゃんと描いている。と、それぞれにピッタリと役にはまっている上に、全体の調和が素晴らしく、勉強会であることを意識させない。幕が閉まってもそれぞれがそのままの世界で生活しているようなリアリティさえ感じさせた。ここ数年の合同公演では一番良かった舞台のひとつじゃないかなぁ。
… というような感想をアンケート用紙の裏につらつらと書き綴り、大満足で帰宅。今年も楽しかったー!