まるぶろぐ

備忘録として日々の出来事をこまごまと綴っております

歌舞伎座 夜の部

木挽町広場の今月のディスプレイは、お狐様。

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海老蔵が声が出なくなり、通常は代役で済ませるところ、夜の部は代役がきかず、公演中止という異例の事態。海老蔵のブログによれば今も毎日、喉に鍼を打ったり点滴をしたりと治療が続いているようだけれど、復帰後5日めの今日はもう、そうした事情を知らなければ喉の不調に気づかないぐらい。

夜の部「星合世十三團」で海老蔵は、題目にあるとおり十三の役を早替り。そもそも、通常は昼夜通しで上演される「義経千本桜」を夜の部だけに凝縮し、その主要人物をすべて海老蔵が演じるというこの演目、これはたしかに代役は無理だろうなぁ、と納得。しかも、昼の部の4つの演目のうち後半の2つ「素襖落」と「外郎売」でもメインで勤め、そのまま夜の部に続くわけだから、身体への負担はいかばかりか。日々トレーニングを欠かさず、病院等で身体のメンテにも余念がないのがブログから伝わってくるけれど、もう40代に入ったからねぇ、20代、30代の頃とは格段に疲れ方が違うはず。

肝心の芝居はというと、早替りでは海老蔵のお面が大活躍で、左隣の女性は早替りの都度、興奮気味に拍手をするし、右隣の女性は、ワァ! エエッ? なんで? とこちらもその都度、感嘆詞のオンパレード。回りもほぼ同じ反応だったから、それだけ沸かせるのはさすがだな、と。とかくバタバタになりがちな早替りで汗ひとつ見せず、優雅と言ってもいいぐらいスムーズに替わり続ける。海老蔵はもちろんのこと、彼を支える裏方のチームワークも素晴らしい。

早替りが見どころなので、ひとつひとつの場面はどうしても端折らざるを得ないのだけれど、「義経千本桜」はおなじみの演目なので、観劇し慣れている人にはまったく支障がない。維盛の妻子が尼妙林に匿われているという場面は普段はなく、そこに小金吾が訪ねてきたところに追手がかかる。続く「木の実」の場面でも、妻子は小金吾ではなく尼妙林に伴われていて、海老蔵が権太を勤めるための工夫だと分かる。前の場面があることで、「小金吾討死」の場面にも問題なくつながっていて、よくできているなぁ、と感心。あと、維盛の妻子と権太の妻子も早替り(妻は児太郎)。

何幕目の終わりだったか、舞台上に星空のような幕がかかって暗転となり、客席には大勢の黒子が出てたくさんの丸い薄明かりが灯り、幻想的な空間の中、知盛が宙乗りでゆっくりと歩いていく。知盛が生霊であることを示す意図かな。源九郎狐の宙乗りもあるから、サービス精神旺盛すぎる気がしないでもないけれども、空中であれだけ背筋まっすぐに安定していられるのは、よっぽど体幹が鍛えられているんだろうなぁ。

最後の暗転のあと、海老蔵が演じてきた十三の役がスクリーン上に次々に映し出される。十三の役の「おさらい」にもなり、その映像にも様々な工夫があって、ネットで配信してほしいぐらい。その映像が終わった途端、舞台から客席に向かって大量の桜の花びらが噴射され、天井からも降り注ぎ、それはもう大変なことに。いくらなんでも降らせ過ぎなんじゃ?! というぐらい。

これだけの舞台を毎日続けているんだものねぇ。早くゆっくり休んでほしい。

海老蔵が大奮闘の舞台を、梅玉義経雀右衛門静御前左團次さんの梶原平三、萬次郎の尼妙林のほか、魁春、斎入、市蔵らのベテランがしっかりと支えている。

あいにく公演中止の日に当たってしまった方々のためにも、Eテレとかで全編ノーカットで放送されるといいなぁ。