9時からの避難器具点検は下の階からスタートなので、9時ほんのちょっと前に起き、着替えを済ませて待機。幸いフィギュアスケート男子シングルのショートプログラムが始まる前に来てくれた。いつもはハッチを開け、ステップを降ろし、巻き上げるだけでおしまいなのに、今日の人は自分でステップを途中まで降り、大きな身体をゆっさゆっさと揺らして見せてから上がってきて、自分の体型でもびくともしないので大丈夫、と降りてみせるのが「僕の十八番なんですぅ」とVサイン。ええっと…と面食らってしまい、うまくリアクションできなくてごめんね。
さあ、フィギュアスケート観戦。民放と違いNHKは下位の選手の演技もすべて放送してくれるのがいい。ソチで銅メダルを獲ったデニス・テンも、かつてはトップクラスだった中国の閻涵も、オリンピック初出場の田中刑事も、ジャンプが決まらず大苦戦。ミューシャ・Gの髭に驚いたり、アダム・リッポンがオリンピック初出場というのが意外だったり、若き新鋭たちの思い切った演技に心惹かれたり。そうこうしているうちに早くも最終グループ。第一滑走は羽生くん。大丈夫か? 大丈夫なのか? 大歓声で彼を迎えた場内も演技が始まると固唾を呑んで静まり返る。そんな張り詰めた空気の中で、大丈夫どころかノーミスの演技で脅威の111点超え! すごすぎる〜!!
その次に滑ったネイサン・チャンは、羽生くんの後だとプーさんの雨が降るから片付ける間に時間ができて気持ちを落ち着けることができる、と笑顔で語っていたのに、得意の4回転でなんども転倒し、まさかの17位と大きく出遅れてしまった。宇野昌磨、ハビエル・フェルナンデス、金博洋と続くラスト3人はいずれも100点を超え、ショートプログラムが終わった段階での順位は羽生くん、フェルナンデス、昌磨くん、金博洋と続く1位から4位までの点差が8.36。注目のフリープログラムは明日の午前中から始まり、最終グループは13時すぎの見込み…って、え? 明日14時からホットヨガ。13時すぎには家を出ないといけない。えええ、そんなぁ〜!!!
ひと息ついて、早めに家を出てベックスへ。ビーフシチュープレートで腹ごしらえ。土曜日のように帽子がシチューの中にダイブしないよう、帽子は最初からバッグにしまっておいた。
時間を見計らって初台に移動し、新国立劇場へ。先週は中劇場で「近松心中物語」、今週はオペラハウスで、日本初演の「松風」。
能の「松風」をもとに細川俊夫の作曲でドイツ語でオペラ化された作品で、世界有数の振付家サシャ・ヴァルツによるコレオグラフィック・オペラとして2011年にベルギーのモネ劇場で初演され大反響を呼び、その後各地で上演されている、という予備知識もあえて入れずに行った。松風と村雨の姉妹が在原行平に想いを寄せるという物語自体は歌舞伎でもおなじみだから、大丈夫だろうという思いもあった。かろうじて大量に配られたチラシの束に入っていた「あらすじ」にだけは目を通しておいた。旅の僧が語り部となるのね。
定刻通り19時に開演。冒頭からかなり長い間、バレエのみの場面が続く。風音。波の音。激しくうねる大波を思わせる。黒衣に身を包んだ旅の僧が現れ、初めて響く歌声。魅力的なバリトン。僧が出会う姉妹は、舞台の幕と並行に張り巡らせたネットを伝うように登ったり降りたり、時には吊り下げられたりしながら行平への想いを歌う。その間も常に群舞が続いていて、ときに姉妹もその中に取り込まれていく。曲はメロディというよりは謡いのようで、その中で姉妹のソプラノが悲痛な叫びのように響く。行平への想いはすでに妄執と化していて、二人はその妄執から逃れて安らかになりたいと願っている。歌舞伎の松風物からはこのような激しい想いは感じられないので、新鮮な驚き。バレエには至って疎いのだけれど、幽玄な世界をあますところなく表現していて素晴らしいと思った。最後に白い服の女性が裸足でひたひたと歩く場面があって、あれはまさに能の歩き方だと、詳しくない私にも分かった。
休憩なしで1時間半と短い作品ながら、とても印象に残る名作だった。思い切って観に行って良かった。全曲ドイツ語ながら、ユキヒラ、アカシ、スマなどの固有名詞はそのまま出てくるし、「立ち別れ いなばの山の峰に生ふる…」という行平の句やお念仏も出てくるから、日本語の歌詞だったらどうだろうか、とも考えたけど、ドイツ語に合わせて作曲されているから訳詞は難しいだろうなぁ。それに日本語だともっと生々しくなってしまうかもしれない。能の「松風」も観たことがあればまた違う感想を持つのかもしれないけれども、能は絶対に寝てしまう自信があるからねぇ… (^^ゞ
帰宅してテレビをつけたら、ちょうどレジェンド葛西さんが飛ぶところ。原田さんの解説って、思わずほっこりしちゃう。日本勢は4人とも予選通過。よかったよかった。